10月30日、第97回天皇杯全日本バスケットボール選手権大会の3次ラウンドが始まり、佐賀県の唐津市文化体育館では4試合が行われた。1試合目は午前9時30分に始まり、長崎ヴェルカ（B3）とサンロッカーズ渋谷（B1）の試合が行われた。今シーズン、B3リーグに参入したばかりのチームは、2大会前の天皇杯覇者に挑んだ。
SR渋谷はアグレッシブでハードなディフェンスが特徴。選手交代を頻繁に行いフレッシュな選手をコートに送り込む。長崎はそんなSR渋谷の厳しいディフェンスに苦しんだ。長崎にはB1経験者も顔を揃えているが、前半はそれでも固さが見られた。クラブとして初めてのB1チームとの対戦、前半終了時点では13点差だった。
選手たちは日頃戦っているB3リーグとのフィジカルの差に戸惑っていた。相手はB3ではなくB1の強豪チームだ。ハーフタイム、伊藤拓摩ヘッドコーチ兼ゼネラルマネジャー（以下HC兼GM）は「自分たちのバスケットボールをしていない。とてもソフトだ。相手よりもアグレッシブにフィジカルに」と伝えたと言う。
すると後半、長崎は見事に立て直す。前半、30得点に抑えられていたものの後半は55得点とSR渋谷を上回った。#5マット・ボンズが29得点の活躍を見せるなどチームを牽引。伊藤HC兼GMは「マットが乗り始めチームに勢いが来た」と感じた。
#34ジェフ・ギブスはすっかりチームの大黒柱的存在になっている。体をハードにぶつけ積極的に戦う姿は昨シーズンまでと何ら変わりない。さらにこの試合、同じくベテランの#3山本エドワードがスリーポイントシュートを効果的に沈めるなど存在の大きさを感じさせた。2人の活躍などで波に乗った長崎はSR渋谷を追い詰めた。
会場は隣の佐賀県だったこともあり、長崎ファンが多く詰めかけた会場はホームアリーナの雰囲気だった。長崎の追い上げとともに会場の雰囲気は変わっていった。
SR渋谷の伊佐勉ヘッドコーチは「長崎をB3のチームと考えるな」と試合前に選手たちに伝えた。それでも「長崎はディフェンスの強度が素晴らしかった」と振り返り「あれだけの強度があればB3では負けないだろう」と語った。SR渋谷はライアン・ケリーを怪我で欠き、27日にアウェーで群馬クレインサンダーズと対戦し再び移動、この日も朝早くからの試合というスケジュールの中を戦っていた。それでも試合終了間際には#9ベンドラメ礼生が厳しい体勢からスリーポイントシュートを決め意地を見せるなど、最後まで勝負の行方はわからない展開となった。
4Q、山本がベンチに下がる際「行けるよ、全然行ける」と声を上げた。コートのみならず、山本は常にベンチでも仲間を鼓舞し続けている。選手一人一人の闘志が表に現れ、本来の長崎のプレーを取り戻すことができた。競った展開になっても長崎は #4狩俣昌也やギブスを中心に慌てなかった。
最終的には85-84と接戦を制し、長崎は見事SR渋谷を下した。長崎ヴェルカというクラブがB1レベルで戦えるクラブであるということを、長崎のスタイルが通用するということを証明した。
狩俣は「もっとできる。普段から行っている練習も間違いではないと確信した。これを続けていけば良いクラブになれる」と試合後に語った。長崎はB1経験者が多く、確かに彼らがチームの中心だ。しかし、ベテランだけではない。チームメイトの中には所属クラブが無くプレーすることすら許されない辛い経験をした者もいる。そんな選手たちがトップレベルの選手たちとプレーをし日々成長していく姿が長崎にはある。プレーできる喜びやありがたさを全身で表現している。
今シーズン誕生したばかりのチームは試合を追うごとにまとまり成長を遂げている。そんなチームにとってこの勝利は大きな自信となったはずだ。会見で狩俣が「すごく嬉しい」と見せた笑顔が物語っていた。
しかし喜びも束の間、31日午後1時には次の試合が控えている。長崎は再びB1チームに挑む。対するは#32ハビエル・カーター、#10菅澤紀行や前田健滋朗アソシエイトヘッドコーチが以前在籍していた秋田ノーザンハピネッツ。勢いに乗る長崎の戦いはまだまだ続く。
