〜The Last Dance〜 川崎ブレイブサンダース ニック・ファジーカス balltrip MAGAZINE(ボールトリップマガジン)

〜The Last Dance〜 川崎ブレイブサンダース ニック・ファジーカス

今シーズン限りでひとつの時代が幕を閉じる 川崎ブレイブサンダース #22 ニック・ファジーカス

「今年で引退します」

9月16日、川崎市とどろきアリーナで行われた宇都宮ブレックスとのプレシーズンゲーム終了後に行われた出陣式。
マイクを手にしたファジーカスは、ファンへこう語り始めた。

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1985年6月17日生まれの38歳。
アメリカのプロバスケットボールリーグNBAのダラス・マーベリックスでプロキャリアをスタートさせた。
しかしそのキャリアは順風満帆ではなかった。2019年に発売された彼の自著をぜひ読んでもらいたい。
ヨーロッパ、フィリピンリーグを経て来日したのは2012年のことだった。
東芝ブレイブサンダースに入団。当時、ヘッドコーチだった北卓也ゼネラルマネージャーは、得点力のある外国籍選手を求めてリクルートした。そこから、彼の日本バスケットボール界におけるKINGとしての歩みがはじまった。

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東芝、川崎一筋。12年という長い時間をクラブのために尽くした。
NBLで2度の優勝。天皇杯は2021年、2022年の連覇を含む3度の優勝に貢献。残した功績は計り知れない。
Bリーグ初年度は、惜しくもファイナルで敗れたが、初代得点王とシーズンMVPを獲得した。

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2018年4月26日、日本国籍を取得。ニック・ファジーカスの帰化は間違いなく日本バスケットボール界の歴史を動かした。
程なく日本代表に呼ばれ、それまで勝利したことがなかったオーストラリアを破るなど新しい景色を見せてくれた。
2019年に上海で開催された、前回のワールドカップへの出場を目指していた日本代表。アジア地区で4連敗していたタイミングでファジーカスが加わると、そこから8連勝。ワールドカップ自力出場を果たし、2021年に行われた東京オリンピックの自国開催枠を得たことにもつながった。オリンピックの舞台に彼が立つことがなかったのは、残念極まりなかったが。
先日のワールドカップでの日本代表の躍進で日本バスケットボールの新たな歴史が紡がれたのならば、止まっていた歴史を動かし、そこに繋がる道筋を作った1人がファジーカスであることは間違いない。

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そんな選手が今シーズン限りで引退する。
淋しくないわけがない。

「驚きを隠せないファンの方も多いと思う。川崎で12年プレーをしてきて、自分に残っているのはあと1年だと感じた。ここで引退発表したかったのは、12年間川崎のファンのみなさんに支えてもらい、日本バスケットボールの発展に関わってきた。ファンのみなさんや子どもたちに最後にもう一度、ニック・ファジーカスを見てもらうためにこの場で引退発表をしようと考えた。最後の1年、僕自身の全てをもって、このチームを頂へ連れていく。日本バスケ、Bリーグ、川崎のファンのみなさんに、僕が最後1年プレーし続ける姿と優勝する姿を見届けてほしい」

ファジーカスは、ファンへ向けて、そう述べた。

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ファジーカスと同期入団の#33長谷川技は、声を詰まらせながら、「ニックが引退するということで、何としてでも勝ちたい。みなさんも全てを賭けて戦ってください」と決意を語った。
出陣式後に行われた会見でファジーカスにそのことについて聞くと、「彼が感情的になっていたことも、ファンのみなさんが反応してくれたことも特別な気持ちになった。長い間、共に歩んできた時間がある。噛み締めることができた」と振り返った。

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そして、「ファンや選手だけでなく、ここにいるメディアのみなさんも長く取材をしてくれている。全員が僕の一部になってくれている。この発表を聞いて、感情的になってくれた方々がいてくれたことは僕にとってすごくうれしいことだ」と、続けた。
「あなたも長く取材してくれている」、そんな言葉をかけてくれるのもファジーカスの人柄で、改めて涙を誘うものであった。

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ただ、シーズン開幕前に発表してくれたことで、そのプレーを目に焼き付ける時間も、ありがとうと伝える時間も十分にある。

「僕はまだ感情的になりたくはない」

そうファジーカスは語る。
「これが最後の練習だ、最後のプレシーズンゲームだ、という風にはしたくない。まず1シーズン戦い抜くこと。その先に感情が追いつき溢れてくるだろう」
ラストシーズン、どんなプレーを、どんな景色を見せてくれるのか。また、ファジーカスの目にはどんな風に映るのか。シーズンを経るごとにどんな感情になるのかも迫りたいと思った。ぜひ、2023-24シーズンは多くのバスケファンにニック・ファジーカスという選手を見つめ、彼との思い出を作ってもらいたい。

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川崎ブレイブサンダースの〜ラストダンス〜

常に共に歩んできた#7篠山竜青は、先だって、「川崎にとってはニックのラストイヤーが大きなトピックになっていて、今年のキーワードで川崎の全てだと思う。何が何でもこのラスト1年、取りに行くという思いでいるし、引退することが分かった時点でラストダンスだということを選手と話している。本当に是が非でも、何が何でも、人間関係悪くしてでも勝つ。それくらいの気持ちで臨むシーズンになる」と強い言葉で語った。

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篠山の言葉から感じ取れた、覚悟と、まだひとつ、ファジーカスと達成できていないもの。ファジーカス本人も、「まだBリーグチャンピオンを味わっていない。成し遂げなければいけないものがBリーグの優勝。全てを賭けて優勝しにいく」と、決意を語っていた。

ファジーカスと共に会見に臨んだ北GMは、「Bリーグになってからも成長してくれて、日本のために帰化もしてくれて、素晴らしい選手。だからこそ、川崎が困るくらい他のクラブからもお誘いはたくさんあったが、川崎を選んでくれた。僕は川崎で引退してほしいとずっと思っていた。コミュニケーションを取る中で、ベテランになるほどトッププレーヤーであるうちに引退したいと数年前から言っていた。それがニックの引退の仕方だと思っていたし彼が決めたことなら、今シーズン最高の結果でニックを送り出し、有終の美で終わらせたい」と、感謝を込めて語った。

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ファジーカスは、会見でもファンを慮っていた。
「まだ気持ちの整理ができていないファンの方もいるだろう。ただ、この決断は悲しいものではなく、みんなで盛り上げてくれたらと思う。まだプレーできるのではないのかと言われるがこれが僕の答えで、あと1年しっかりやり切ることが僕の最善だ。悲しんで欲しいわけではない。最後に僕の勇姿を見てほしい」
彼の想いはファンへ届いたことだろう。彼はまさに日本バスケットボール界のKINGだ。

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ファジーカスの引退発表とともに、川崎ブレイブサンダースの特別なシーズンが幕を開けた。
最後まで見届けよう、ニック・ファジーカスのラストダンスを。

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最後に、ファンとして
シーズンを通して、多くの「ありがとう」を伝えたい
ラストダンスを長く見続けられるよう、そしてニック・ファジーカスにとって最高のシーズンとなるよう、心から願っている

文:木村英里
写真:濱田茉里

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