3月27日から31日にかけて東京体育館で行われたB.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2024に出場したクラブから、ユース世代の育成に尽力する指導者を紹介していく。
今回は、vol. 1で特集した琉球ゴールデンキングスU15末広朋也ヘッドコーチ（以下・HC）を師匠と仰ぐ、新米HCの挑戦に迫る。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15 吉田英司HC
「コーチ歴はまだ4年、HC1年目です」と話すのは、名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15 吉田英司HCだ。昨年6月から指揮を執り始め、ようやく10ヶ月が経った。
「どうチームを作っていけばいいのか、どの練習が今この時期に合っているのか、手探りな状態」でシーズンは幕を開けた。
今大会に出場した中学3年生の選手たちには思い入れがあった。「2年前に名古屋D U15のアシスタントコーチ（以下・AC）としてチームに入りました。今の3年生の選手たちがちょうど1年生でトライアウトに入った時だったんです。4月から9月までの約5ヶ月を一緒に過ごしましたが、トップチームのスタッフとして急遽招集がかかり離れることになってしまいました。そこから2年間はトップチームにいて、選手たちが3年生になったタイミングでHCとして戻ってきたんです。2年振りに再会して、成長を感じる部分もありましたし、またこの子たちとバスケットボールをすることができたのはとても良かったです」と感慨深げに話す。
そんな選手たちと始まった新シーズン。昨年11月に行われた第13回豊田通商カップ 第5回愛知県 U15 バスケットボール選手権大会 2023や、今年2月に開催されたB.LEAGUE U16 CHALLENGE CUP 2024では優勝を果たした。
人生最大の悔しい敗戦
しかし、4連覇がかかっていたB.LEAGUE U15 CHAMPIONSHIP 2024は、残念ながら6位という結果に終わった。
「素材はもちろんいいです。188センチのビッグマン、体を張れる選手、愛知ではナンバーワンのポイントガード、ハンドラーでシュートも決められる選手もいる中で、最後にこだわらないといけないリバウンドやボールの球際をどうしても固く我慢して守り切れませんでした。徹底させるところや抜いたり抜かなかったり、コーチとしての駆け引きがシーズンを通して少し曖昧でした。自分の弱さでもあります。ただ、今回の大会でそこが少しわかったかなと思います」と、HC自身も選手とともに成長を続けてきた。
そんな吉田HCが「人生で最も悔しかった」と語る敗戦が、この大会であった。
大会3日目に行われた、昨シーズンまで名古屋D U15で3連覇を成し遂げた末広HCが率いる琉球U15戦。試合は競った展開が続いたが最終クォーターに離されてしまった。
プレッシャーは想像以上だった。「プレッシャーは子供たちも一緒なので、そこを楽しもうとずっと言ってきましたが最後に負けてしまって」と、敗戦を振り返る。
選手たちにとっては2シーズンお世話になった恩師との試合、吉田HCにとっても尊敬する先輩との試合だった。さらに、名古屋D U15から末広HCを追って琉球U15へ移籍した選手もいた。「1年目のHCですが、どのチームよりも琉球に勝ちたい気持ちは強いと思っています。なので勝たせてあげられなかったのはコーチとして未熟だったなと感じています」と悔しさを滲ませた。学生時代に選手として臨んだ多くの敗戦と比べても、最も悔しい試合となった。
トップチームでの経験から生まれる指導方針
名古屋Dには、#7今西優斗と#17若野瑛太というU15時代から頭角を現し、ユース育成特別枠選手としてすでにBリーグデビューしている選手たちがいる。吉田HCは、トップチームでマネージャーとACを担ってきた。トップチームに合流した今西と同じ時間を過ごす中で気付いたことがあった。
「バスケットボールの専門用語やアクションなどの名前が全く分からずに練習に参加していました。名古屋Dのショーン・デニスHCを含め、今、Bリーグでは海外から来るコーチが多くいます。コーチの指示やセットを私たちが伝えないと理解できないということがありました。バスケットの用語は世界共通なので、この世代のうちに理解することも必要なことかなと思います。基礎知識と基礎用語が大事ではないかと考えるようになりました」と話す。中学校や街のクラブとは異なる、ユース独自の育成が行われている。
「琉球U15の末広HCも話すように、自分より大きいサイズの選手とこれから戦わなくてはならないので、そういう選手からも得点を取ることができる選手、クリエイトしたパスが出せる選手を育てたいです。自分よりフィジカルがある大きな選手と戦えるようにしたいと思いますし、そこを目標にしていきたいです。上を目指している選手たちはトライアウトに合格し入団します。やる以上は、各大会で優勝を目標にしていますが、卒業後に一人でもプロ選手や日本代表選手になってほしいという思いが一番強いです」と、今後の育成について語る。
ネガティブな声が出た時こそ楽しく
吉田HCが尊敬する琉球U15の末広HCは、「若くてエネルギッシュなHCです。僕とはまた良さが違っていて勉強熱心な人なので、これから絶対に伸びていくコーチだと思います。コーチにとって一番力があると認められるのは、チームをゼロから作ったり育成をしっかり行った後でしょう。今シーズンは、僕から引き継いだチームだったので、来年再来年のチーム状態で検証してまた足りないことを補っていけばいいと思います」と、気に掛けていた。
「僕もそう。琉球でゼロから作ったチームがどこまで強くなるかで本当の力がわかります。名古屋D U15での3連覇は、いい選手が集まっていたからではないかという自分への疑いがあります。夢も含めて、別の場所でもいいチームが作れるのか、いい選手を育てられるのか、自分の力なのか検証です。彼も引き継いだチームでまだ僕の色が残っていたと思います。来年再来年、また対戦するのが楽しみです」と、エールを送っていた。
現在26歳。若きHCの挑戦は始まったばかり。
「楽しみながらやるときはやる。試合中もネガティブな声が出始めたら、自分から楽しくやろうよと声掛けをしています」。新たなシーズン、また選手たちとの成長の日々がスタートする。
最後は柔らかな笑顔でこう結んだ。
「想像していなかった景色がたくさん見られています。それは舞台も結果も含めてです。中学時代に対戦したチームの先生と試合をすることもあります。今、こうやって戦えているのは、自分が少しだけ成長できたからなのかなと。今大会も初戦の秋田ノーザンハピネッツU15戦で、もしかしたら負けてしまっていたかもしれないですが、そこを粘り強く勝てたことも自分の成長に繋がったところだと思っています。子供たちに成長させてもらっています」
インタビューの序盤、手探りで始まったシーズンを振り返っていた時と、今後の目標や方針について語る表情は180度変わった。しっかりと前を見据え、丁寧に語ってくれた。
歩き出したHCの道。これからもプレッシャーを楽しみながら挑戦を続けていく姿を期待したい。この先、どのようなHCへと成長するのか、どのようなチームを作り、選手を育成していくのか楽しみに、注目してもらえたら嬉しい。
名古屋ダイヤモンドドルフィンズU15
https://nagoya-dolphins.jp/academy/youth/
