選手入場後、感慨深げにアリーナを一周見回していた選手がいた。彼にとって、とどろきアリーナは2シーズン前までホームアリーナだった「特別な場所」
広島ドラゴンフライズ#3辻直人。
10月8日、川崎市のとどろきアリーナでは川崎ブレイブサンダース対広島ドラゴンフライズが行われ、71-72と広島が逃げ切った。
試合前、辻がコートに現れると会場からは大きな拍手が巻き起こり、笑顔を見せていた。2020-21シーズンまで在籍していた川崎との対戦。昨シーズンは広島での試合のみだったため、移籍後初の凱旋試合となった。
試合後、会見場に姿を現すと「アウェーで戦うのは感慨深い…」そう語り始めた。GAME1のTIP OFFは18時05分。当日の朝、シュート練習でとどろきアリーナを訪れた。その時は「色々な感情が込み上げた。込み上げたまま試合を迎え、コートに入ったらエアボールをしてしまった」と苦笑いをしていた。
会場には辻の背番号の広島ユニフォームを着用しながら川崎を応援するというファンの姿も見られた。話を聞くと「今節だけはとどろきでアウェー席に座る、辻のファンだから」と明かしてくれた。辻はアリーナを見回しながら、自身の名前のタオルを掲げるファン、川崎時代からのファン、広島から応援に駆けつけてくれたファンの姿を確認していたという。「ファンの方の笑顔まで見られた」と噛み締めていた。
昨シーズン、話を聞いた際にはチームと自身の課題について「引っ張ってくれる存在」という言葉で表現していた。どんな時も、チームも自身のプレーも好不調の波は訪れる。かつての自分は「周りが同じ方向へ進み、その中でプレーで牽引して」いた。広島でまた苦しい時期が訪れた時、全員が同じ方向を見られていないことに気が付いた。今までと同じではいけない、足りないものは何か。
川崎在籍時は強力なキャプテンシーを持った存在がチームをまとめ上げていた。川崎#7篠山竜青。知りすぎているかつての仲間のすごさと陰ながらの努力を再認識していた。昨シーズン、広島で取材した際には「選手間だけでなく、時にはコーチやクラブとも間に入って話すことも必要」と篠山の姿を思い出していた。後悔と発見のシーズンだった。
そんな辻は今シーズン、キャプテンを務めている。川崎戦では、コート上で仲間を集めようとする姿も見ることができた。早速、プレー以外でもチームを牽引しようとしている。
変化について問うと、「周りを見るようになった。チームのことを考えて発言するようになった。キャプテンの責任を感じている」と凛々しい辻がいた。「それが僕が今まで感じてこなかったところ。毎週毎週、練習の中から成長していきたい」と意気込む。
キャプテンの役割とは何か。自分らしいキャプテン像とは何か。キャプテンとしてのチャレンジの中でももちろん自身のプレーにもこだわる。キャプテンシーと己のエゴと、新しい辻が広島を常勝チームへと導くことができるのか注目だ。
