
名古屋ダイヤモンドドルフィンズ 中務敏宏 引退を前に今思うこと、そしてファンに伝えたいこと
「引退しなくってもいいかなって」
シーズン終盤、現役生活も残り1ヶ月を切ったタイミングで、balltrip MAGAZINEはその胸の内に迫った。4月19日に行われた横浜ビー・コルセアーズ戦後、無邪気にそう笑う中務がそこにはいた。
13日に行われた越谷アルファーズ戦で沈めた今シーズン初となる3ポイントシュート。その際もホームアリーナであるドルフィンズアリーナは大いに沸いていた。横浜BC戦はアウェー横浜BUNTAIでの開催だったにも関わらず、中務が得点を決めると待っていたかのようにコート上のチームメイトやベンチ、そして観戦に訪れていたファンは熱い盛り上がりを見せた。
「集中していて意外と盛り上がりはわからないんですよね。今日もファーストタッチで、うわぁ〜無茶振りのパス来た!と思いました(笑)入って良かったです。決めた時にベンチを指差しましたけど盛り上がっていましたね」と嬉しそうに笑った。


前節、惜しくもチャンピオンシップ出場を逃した。中務は大勝した横浜BC戦後に今シーズンのチームについて「本当に大変な時期が続いたけれど諦めずに、色々な問題を抱えながらも自分たちで少しずつ解決してきました。メディアの方やファンの方には見えないところで、すごく頑張りました。どうしようかどうしようかと組み立ててきたんです。今シーズンの自分たちの色を少しずつ出せるようになってきました。時期的にはすごくシーズン終盤にずれ込みましたけど、勝負できる状況になってきたかな」と振り返っていた。
開幕前に引退を表明した今シーズン。
「契約更新の段階で、現役を続けるなら(今シーズン限りで)引退すると発表しますと言いました。たくさんの人たちにありがとうございましたと言う機会が欲しかったので。個別で会うことはできるけど試合会場でバスケットボール選手の中務として会ってありがとうを伝えたい」という強い想いがあった。中務の想いに応えるようにホーム、アウェーかかわらず多くのファンが駆けつけた。「本当に引退しますと言って良かった」と噛み締める。
そんな中務も「シーズン開幕後しばらくはあまり実感がなかった」のだという。
「ファンの方がたくさん思い入れを持って盛り上がってくれていて。あぁそっか、俺『引退する』って言っちゃったもんなと。引退は自分のことなのに少し他人事みたいな感じがありました。ただその中でもシーズン中はやっぱり必死になります。チームもなかなか大変だったので、チームにフォーカスできてある意味バスケットを楽しめました。試合には出られなかったけどみんなで作っていく過程を最後の最後までできたことはすごく大きかったです」
ファンは中務がコートに立つ時間がどれほどかけがえのないものなのかを理解している。アウェーで行われた横浜BC戦。中務の交代出場がコールされるとファンの大きな拍手と声援が聞こえた。シーズン中も「あまり引退するという実感はせず、このまま続いていくような感覚だった」という。ただ越谷戦でスリーポイントを決め、さらに先月18日には39歳の誕生日を迎えてからファンの方のSNSの書き込みなどを見て、「本当に来たな」と急に実感が湧いた。
充実したシーズンもあとわずか。
「今になると、シュートも決めたし引退するって言わなきゃ良かったかなって思ったり(笑)そういう気持ちが芽生えているのも事実です。僕は気持ちが弱いのでこういうこともあるかとあえて引退を公表したというのもあります」
素直に胸の内を明かす中務。揺れる思いが垣間見えた。一人のファンとしては少しでも長くユニフォーム姿を見ていたいものだ。


ホームアリーナとしてたくさんの思い出が詰まったドルフィンズアリーナ。来シーズンからチームはIGアリーナで戦う。27日に行われた三遠ネオフェニックス戦はドルアリ最後の試合だった。会場で6061人の観客が声援を送った。残念ながら試合に敗れはしたものの中務も試合終盤コートに立った。惜しくもボールがリングを通ることはなかったが、ドルアリで最後にシュートを放ったのは、他でもなく中務だった。
Bリーグ発足から9シーズンの間、ずっとドルフィンズのユニフォームを身に付けてきた。
「ドルフィンズでのトシさんとしてはやりきったのかなと思いますね。アスリートとしてこだわるのであればまだまだやれるのかなという思いもあります。だけど僕はドルフィンズの中務なので。ギリギリまでここの空間、このチームメイトの一員として、トシさんがやらなければいけないことを最後までやりきりたいなという気持ちが大きいかな」
迫る引退。感情面ではまだ続けたい思いがないわけではない。もちろん、プロの選手である以上はコートに立ちたい思いもある。若い選手の台頭や自身も年齢を重ね、チームとの関わり方や貢献の仕方は変わっていくもの。それを常に受け入れてきた。中務の言葉からは最後までドルフィンズの選手としての責任感やプライドが感じられた。
ここ数年は家族と離れての生活が続いた。引退後には家族と過ごす時間という楽しみに加えて「既にお誘いいただいているお話もある」と明かしてくれた。少し休んだ後、家族との時間を大切にしながら新たなステージに挑戦してもらいたい。将来を見据えて話す姿は期待に胸をときめかせる少年のようだった。
新たなステージを前に、今シーズン残り2試合。仲間とプレーできる時間もあとわずかだ。
「チームメイトは、いろんなところで助けてくれました。気持ち的にすごくしんどい時期があっても、その理由を理解して支えてくれる、本当にありがたいチームメイトです」
最年長としてチームを牽引してきた。「端から見るといつもトシさんが何か問題があったら解決していると思われています。そういう時もありますが、逆に僕自身も支えてもらっていたことがたくさんあって。気持ちは分かるけど今日はとりあえず頑張ろうとか、気にしないでいいよとか」と、少し感慨深そうに仲間とのこれまでの時間を振り返っていた。


5月3日4日に、愛知県のウィングアリーナ刈谷で行われるシーホース三河戦が現役最後の試合となる。ファンの前でプレーする姿を見せたいところだ。
「4000人とか多くの方が来てくださるようになってからチームを応援してくださる方は、俺がどんなプレーをするのかあまり知らないと思いますが、気にせず盛り上がりに乗っかってもらえたら。こういう選手いたよねぐらいでいいので。ドルフィンズというチームを愛してもらえるきっかけになればと思います」
そして最後に、ともに歩んできたドルファミに今伝えたいこと。
「1つのチームで9シーズンという長い時間を過ごすことは、自分で言うのもあれですがすごいことだと思います。一緒に盛り上がってくれて楽しんでくれて、本当にありがとうございますという気持ちです。やっぱりドルファミ、ドルアリは一緒に育ってくれたメンバーなのであの場であの空間で一緒に楽しめたことに感謝しています」
ドルファミへ感謝の想いを胸に試合に臨む中務の選手としての集大成を見守ろう。