引退しても好きなものに傾ける情熱は変わらない トヨタ自動車アンテロープス ヘッドコーチ 大神雄子
2023年を迎え、早速元日から第24回 Wリーグ レギュラーシーズンの試合が行われている。1月2日3日、渋谷区の国立代々木競技場第二体育館では、注目チームのひとつ、Wリーグ3連覇の期待がかかるトヨタ自動車アンテロープス(以下・トヨタ自動車)がアイシン・ウィングス戦に臨んだ。77-51、83-53のスコアでトヨタ自動車が連勝し、新年も幸先良いスタートを切った。
チームを率いる大神雄子ヘッドコーチ(以下・HC)は、現役時代から長く日本のバスケットボール界を牽引してきたレジェンドである。リーグ優勝を9回も経験し、WNBAに挑戦した過去も持つ。さらに東京オリンピックの銀メダリスト三好南穂サポートコーチや、2016年のリオデジャネイロオリンピックの日本代表メンバーでもあった栗原三佳らがサポートスタッフとして脇を固めている。
今シーズンのチームスローガンは「X Factor」だ。Xが意味する「未知」。この先の壁にもチームが一丸となり乗り越えられるように土台からしっかり組み立てている。チームは今シーズン、若返りを図り、大神自身もリーグで最も若いHCとなった。だからこそ「勢いがある。しかし悪い流れに持っていかれてしまうこともあるだろう。シーズンがスタートしてから自分たちの武器は何か探し求めている最中」なのだ。
今、大神HCやチームが考える武器、柱は「ビックマンのインサイドのアドバンテージやシューターを生かしたスペーシング」などである。練習だけでなく毎試合を通して経験を積みながら築き上げていく。勝負の世界、勝つことも重要であり結果を求める。勝利することが選手にとって自信に直結することもあるだろう。だからこそ、そのための準備が必要だと何度も説いている。
ベテラン選手が持つ「ゲーム感」を、「若い選手が試合に出場して学んでいく過程」との言葉通り、交代で出場した選手たちに身振り手振りを加えて熱く指示を送ったり指導したりする姿があった。チームとして、今シーズンは「コミュニケーションを大切に」している。決して、大神HCからの一方通行ではない。「選手からもアウトプットができる環境作り」を心掛けているのだ。
時に険しく、時に笑顔で、情熱は現役時代を彷彿とさせる。そのままコートへ勢いよく飛び出してくるのではないかと思う時すらある。「引退しても好きなものに傾ける情熱は変わらない」。誰よりも愛するバスケットボールを楽しみ、表現する。これこそが大神HCの魅力だ。「みんなにも同じように感じてほしい」と思っている。だから常に上機嫌に接する、これは大神HCのコーチとしてのフィロソフィーのひとつだ。「もしかしたらすぐに結果は出ないかもしれない。それでもいつか『こんなコーチがいたな』と思い起こしてほしい」、そんな思いを胸に選手たちと向き合っていた。
Bリーグに比べれば「アリウープなど、運動能力を使った豪快なプレーはないが、繊細で密なプレーやゲームの流れの変わり方」などWリーグならではの見どころがある。2021年8月、東京オリンピックで女子バスケットボールは銀メダルを獲得。大神HC自身もかつては代表のユニフォームを着てプレーを続けていた。「(銀メダルに輝いた)後輩たちを誇りに思うし、選手たちが出した結果に自信を持ってコートに立ちプレーをしてほしい。今、そういう選手たちと日々一緒に過ごしていてとても楽しい」と笑顔を見せてくれた。
まだWリーグの観戦をしたことがない方へ向けて、「世界トップのシューターの選手たちや、メダリストのプレーを見にきてほしい」と呼びかけた。昨年12月に行われた第89回皇后杯全日本バスケットボール選手権大会の決勝戦では、ENEOSサンフラワーズ(以下・ENEOS)がデンソーアイリス(以下・デンソー)を破り10年連続27回目の優勝を飾っている。ENEOSには#10渡嘉敷来夢や#7林咲希などが在籍。デンソーは#12赤穂さくら・#88ひまわり姉妹らがチームを牽引している。日本代表メンバーらが活躍するチームなどを入り口に、ぜひWリーグの会場へ足を運んでもらいたい。
華麗に、激しくプレーする選手たちはどこか楽しそうにも見え、大変魅力的だった。大神HCは、「代表時代に楽しむという言葉を使ってはいけないと指導を受けたこともあった」という。しかし、「楽しむ気持ちがなければ日々の辛い練習には耐えられないだろう」と、毎日の練習から楽しいと感じてもらえるようなプログラムを組むことも大神HCらしかった。
トヨタ自動車は、「私を含めいい意味でクセの強い集団。チームでのプレーに加えて、一人一人の個性やプレースタイルなど特徴がとてもよく出ている。この選手のこんなところがすごいなと感じてもらえたら」と語る。シーズンを通して、どのようなチームを作り上げるのか。またWリーグ3連覇を達成することができるのか。そして、この先コーチとしてどのような選手を育て、自身もどのようなコーチになるのか。大神HCのこれからの挑戦に、ぜひ注目してもらえたら嬉しい。