新生 福島ファイヤーボンズ
「東北カップ2023 in FUKUSHIMA-東北籠球頂上決戦-」が、福島県郡山市にある宝来屋郡山総合体育館で9月16日17日18日と3日間に渡り開催された。東日本大震災の翌年、2012年から 「バスケットボールを通して東北を、そして日本を元気にするアクション」と開催された東北カップ。今年は11回目を迎え、所属カテゴリーの垣根を越えた東北5県5クラブが郡山市に集った。本来であれば岩手ビッグブルズも参戦予定であったが、ベンチ登録可能人数のエントリー要件を満たせず不戦敗となった。
ホーム開催となった福島ファイヤーボンズは、今年創設10周年。9月3日に行われた、プレシーズンゲーム山形ワイヴァンズ戦に続き、東北カップでは10周年記念ユニフォームを選手たちは着用。胸の部分には10周年のアニバーサリーロゴがデザインされ、県内の59市区町村が描かれた。レギュラーシーズンでは着用されないことから、貴重な姿となった。
地元福島県出身の#21菅野翔太は、「僕もキャリアは今年10年目で、ボンズも10周年ということで、本当に自分がキャリアをスタートしたこの地で、昨シーズンまでは(創設時からプレーする)村上慎也がいたが山形に移籍し、この10周年のユニフォームを着てプレーしている中で初年度からいるメンバーは僕しかいない。今までつないできた伝統や、クラブの良さを新しいメンバーとより良いものにしたい。僕も2年間は三遠ネオフェニックスでプレーしていて、その時が会社としても一番苦しい時期だったと思う。その時期を僕は経験していないが、色々なサポートのおかげで新しいメンバーも揃いチームも活動できている。もちろんブースターの皆さんの力も本当に大きな影響を与えてくれている。絶対にB1へ昇格し、改修に入る宝来屋郡山総合体育館をB1の舞台として戦えるようにしたい」と、語ってくれた。
10周年という節目のシーズン。コーチ陣も所属選手も新たな顔ぶれが並んだ。ここからまた新たに福島の歴史が始まる。
東北カップでは、準決勝から登場した福島。17日に行われた仙台89ERSとの一戦は、点の取り合いで競った試合展開が続いたが、80-86と惜しくも敗戦。今シーズンから就任した、エンリケ・スニガスーパーバイジングヘッドコーチ(以下・SVHC)は、「小さなやるべきことはまだまだあるが、選手はファイトしてくれた。チームとして幸せに思う。まだ若いチームなので最後にミスをしてしまうこともある。最後の3分間、やるべきことを遂行できなかった。学ぶことがある」と、試合後に振り返った。
今シーズンは、新たに#3加藤嵩都、#15玉木祥護、#20多田武史、#25ラポラス・アイヴァナーカス、#30ロバート・ボリック、33林翔太郎、#78田渡凌と、7選手が新加入、雰囲気もガラリと変わった。
新体制となったチームは、練習から雰囲気が良いという。スニガSVHCは、「選手自身がコミュニケーションを取っているし、練習開始の1時間半前から来てワークアウトをしている。自由参加のウェイトトレーニングにもほとんどの選手が来ていた。いい習慣を続ければ良いチームになるだろう。
(就任後)チームのフィロソフィーを変えたが、新しいものを作るためにはこれまでのフィロソフィーを一度壊す必要がある。若いチームにとっては初めてのことだと思うが、すごくフィットするだろう」と語った。フィロソフィーについては、「ライバルチームに知られたくないから」と多くを明かさなかったが、展開の速いバスケットボールを目指そうとすると、「若い選手の中には勘違いをして急いでしまう選手がいる」のだという。「強度なディフェンスから、オフェンスへ」というチーム作りが、まさに今、行われている。
新加入ながらキャプテンに就任した田渡は、試合中、スニガSVHCと頻繁にコミュニケーションを取っていた。スニガSVHCは、そんな田渡について、「経験のあるポイントガード。違う見方をしてくれる。コート上ではコーチとしてコントロールしてほしいと話している。選手たちに考えさせたい。若手にも教え、リーダーシップを取ってくれる」と語った。
そんな新指揮官については、「メキシコ人のコーチで、アップテンポに展開する。すごく良いところは、選手全員に自信を持ってプレーをしなさいと声をかけてくれる。バスケットボールは自分の持ち味をどう出すか見極めないといけない競技だが、それぞれが持ち味を出せるチームになると思う」と、田渡も期待する。
「僕は英語を話せるし、チームに伝えるべきことを僕が最初に知っておく。コートでプレーしていると視野は狭くなるが、外からたくさん見えるものがある。スニガSVHCはメキシコを代表するポイントガードだったので、選手としてのゲーム感はどの時代も変わらないと思うし、リスペクトしている」と語り、既にコーチ陣と選手間の良い橋渡し的存在としてもチームを支えている。
18日には3位決定戦、青森ワッツ(以下・青森)との一戦に臨んだ。1クォーターこそ青森にリードを許すも、2クォーターには、田渡の精度の高いパスから#88グレゴリー・エチェニケが決めるなど逆転に成功。後半は前半と打って変わってリードを広げた。今オフに15kg減量したエチェニケが22得点22リバウンドとダブルダブルの活躍でチームを牽引。新戦力のアイヴァナーカスが15得点と続いた。83-62のスコアで青森を下し、2016年開催大会以来の3位という成績で終えた。
試合後、スニガSVHCは、「オフェンスにばかり集中してディフェンスに課題があった。ディフェンスをしっかりやればオフェンスはついてくると選手たちにも伝えた。絶対全ての試合に勝たなくてはいけない。選手のコンビネーションなど試しながら、新しいことを挑戦しなければいけない。天皇杯、シーズン開幕へ向けて練習も100パーセントで試合に勝つ」と意気込んだ。
福島は22日に、第99回天皇杯 全日本バスケットボール選手権大会2次ラウンドに臨む。対戦するのはB1リーグの名古屋ダイヤモンドドルフィンズ(以下・名古屋D)だ。菅野は、「天皇杯もB1の名古屋Dと試合ができるので、しっかり自分たちの自信につながるようなチームプレーをしたい。そこで勝てれば、シーズンにいいイメージで臨める。B1相手だろうと、僕たちは下剋上のつもりで戦っていきたい。昨日はB1の仙台ととてもいいゲームができ、あと一歩というところ。ちょっとしたB1レベルとの違いを潰していければ、今年のメンバーならB1とも戦えるチームになる。少しずつステップアップしていけたら」と、表情は明るかった。新生福島、ぜひとも注目してもらいたい。
仙台89ERSの藤田弘輝ヘッドコーチは、初代福島ファイヤーボンズのヘッドコーチだった。初めてヘッドコーチとして挑戦した思い出深いチーム。「福島が10周年ということは自分のコーチングキャリアも10年経ったのかと感慨深かった。10年もやってこられたのは、たくさんの方が支えて、チャンスをくれているおかげ。当時の社長や関わっていた方々が、まだ27歳の僕にチャンスをくれた。感謝の気持ちでいっぱい」と、当時を振り返りながらコメントした。
10年という時間の中でも、多くの方が「ボンズ」との関わりを持ち、支えてきた。
これまでの感謝を胸に、今シーズン、チームの雰囲気はガラリと変わり、本気でB1リーグを目指すチームとしての姿勢が伺えた。今シーズンに限らず、この先10年、20年、どんなチームへと成長を遂げていくのかも含めて、楽しみにしたい。