FIBAバスケットボールワールドカップ2023 沖縄アリーナでの取材を終えて balltrip MAGAZINE(ボールトリップマガジン)

FIBAバスケットボールワールドカップ2023 沖縄アリーナでの取材を終えて

8月25日に開幕し、フィリンピンとインドネシア、そして日本は沖縄アリーナと史上初めて3カ国で同時開催されているFIBAバスケットボールワールドカップ2023。9月3日までに沖縄アリーナで予定されていたすべての試合が行われた。リトアニア、セルビア、イタリア、アメリカ、ドイツ、ラトビア、カナダ、スロベニアがベスト8進出。準々決勝以降は、5日からフィリピンのマニラで行われる。頂点に輝くのはどのチームだろうか。

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そして、日本は1次リーグでドイツ、フィンランド、オーストラリアと対戦し1勝2敗の戦績で、グループ3位。17~32位決定戦に回り、ベネズエラ、カーボベルデと対戦、連勝し、全ての戦いを終えた。この結果、日本は今大会3勝2敗と勝ち越し、19位。前回のワールドカップでの31位という成績から飛躍した。さらに、目標であった出場するアジア6カ国のうち成績1位となり、見事来年開催されるパリ五輪への出場権を手にした。

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これは、1976年モントリオール大会以来48年ぶりに自力で出場権を獲得したことになり、パリ五輪の団体球技国内第1号にもなった。そして、フィンランド戦での勝利は、2006年に行われた現在のワールドカップにあたる世界選手権のパナマ戦以来17年ぶりであったため、こちらも長いトンネルを抜けたわけだ。

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 この大会を取材しながら、日本代表の躍進とともに多くのメディアに取り上げられ盛り上がるバスケットボール熱を嬉しく感じていた。那覇空港や羽田空港で多くのファンが日本代表を見送り出迎えたことも話題になった。いくつか印象的だったことを記しておこうと思う。

 東京五輪では、バスケットボール女子日本代表を銀メダルへと導いたトム・ホーバスヘッドコーチ。当時も、試合中に「何やってるんですか〜!」と檄を飛ばす姿が話題になった。このワールドカップでも度々厳しい姿が映し出されていたが、常にチームを、選手を「信じている」と言い続けていたホーバスヘッドコーチ。

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カーボベルデ戦後の会見で、チームへの想いを問うと、「私がコーチングの一番好きなところは、こういうゲームを勝って、オリンピックも銀メダルで、こういうゲームの目標を決めて(成し遂げる)みんなの顔を見ると本当に最高。 でも、準備が大変。長い間に毎日いろいろやって、最後の最後に大きな試合で勝って。みんなの顔、本当にあれが一番好きだ。このチームはみんな仲良く雰囲気がいい。 みんな、同じ目標を決めてコミュニティブにして、チームのためにみんないい試合をやった」と、優しい眼差しでどこか誇らしげに語ってくれた。

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八村塁がNBAでのプレーに全力を注ぐためワールドカップへの出場を見送った中で、個々が成長し役割を全うしながらチームが一丸となり日替わりでエースが現れるチームへとまとまった。ベネズエラ戦での逆転劇の立役者となった比江島慎。

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33歳とチーム最年長のベテラン、これまで長きに渡り代表活動を続けながらなかなか勝てずに苦しみ続けたからこそ、この活躍はファンにとってたまらなく嬉しいものだった。そんな比江島に対し、渡邊は会見で、「彼を止められる選手は世界でもそんなにいないと言い続けている。僕は彼のBリーグのスタッツに納得していない。今日はサプライズでもなくあれが僕が知っている比江島慎。いつも、もっとやってほしい」と語っていたことも付け加えておこう。

 そして大会を通じ、常に攻守に渡り日本を牽引し続けた、まさに大黒柱であったジョシュ・ホーキンソン。ホーバスヘッドコーチは、「ジョシュはビーストだ。アンビリーバボー」とフィンランド戦後の会見でコメントしていた。

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渡邊も、敗れはしたがオーストラリア戦後に、「とにかくゴール下で体を張り、リバウンドも全部もぎ取ってくれてチームみんな感謝している。これだけ長い時間をあの強度でやっていると大変だが、一切弱音を吐かない。お互い助け合っていかないと。僕ら二人とも40分間出るつもりでいる。本当に勝たなければいけないので1分1秒も無駄にできない。体を張って走り続ける」と、リスペクトを込めて語り、ホーキンソンからとても刺激を受け、ともに戦う覚悟を見せていた。

残念ながら一次リーグで敗退し二次リーグへの進出は果たせなかったが、日本バスケットボールの進化を間違いなく見せ、自力で五輪への切符をつかみ取った。最終戦を終えた直後のインタビューで、各々がさらに次の目標を見据えパリへ向けてのコメントをしていたことも印象的だった。

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渡邊雄太は、「これが第一歩だ。これで満足していたらこれ以上の成長はない。すごく誇らしく大変なことを成し遂げたが、僕らが目指していることはもっともっと上。ドイツやオーストラリアのようなチームに勝てないと(パリ五輪は)全敗で終わってしまうかもしれない。パリまでに自分への課題。崖っぷちに強い男なので、パリでがんばりたい」と決意を新たにしていた。

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崖っぷちに追い込まれてもNBAのチームとの契約をもぎ取り5シーズンもプレーをし続けた選手だ。このワールドカップは、まさに渡邊が中心となってチームが一つにまとまった。

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大会前、パリ五輪へ行けなかったら代表を引退するとまで公言した渡邊。そしてその渡邊に対し、まだまだ引退はさせないと言った河村勇輝。日本バスケットボール協会の東野智弥技術委員会委員長は、フィンランド戦に勝利した直後、「大舞台で勝つためのチームワークは我々の得意なところだと思う。そのためには結果を出さないとないと。成功体験が欲しかった。ロッカールームでは、僕見たことない一体感がある」ととても興奮気味に語ってくれた。

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18点差からの大逆転を演じたフィンランド戦。試合後に河村が、「トムさんのバスケは、たとえ20点差があっても戦える。追いつける点差だった」と真っ直ぐ見つめて語っていた姿が印象深かった。日本の若きエースは、感情を全面に押し出さず常にクールだった。

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そんな河村や同じく22歳、カーボベルデ戦ではスリーポイントシュート成功率は見事75パーセントを記録した富永啓生のことを、馬場雄大は、「彼らは負けを経験していないから、どんな相手も恐れない。落ち着いている」と笑っていた。

 常に選手を「信じる」名将と、指揮官のバスケが日本を強くすると信じた選手たちが築き上げた一体感だった。その上で、今回のワールドカップでの3勝やパリ行きの切符を手にできたという成功体験、そして達成できた要因の一つであるチームワークをもとに、パリへ向け日本代表はさらなる飛躍をすることだろう。

そして改めて、大会前に東京都江東区にある有明アリーナで行われた国際強化試合で対戦したフランスのルディ・ゴベアやエバン・フォーニエ、そしてスロベニアのルカ・ドンチッチ。そして本大会ではドイツのデニス・シュルーダーやオーストラリアのパティ・ミルズにジョシュ・ギディなどNBAで活躍するスーパースターのプレーが目の前で見られたことはとても喜ばしく興奮した。

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日頃、NBA観戦を楽しむ方には日本代表やBリーグに興味を持ってもらえる機会であったなら嬉しく、そしてBリーグをいつも観戦している方がNBAにも興味を持ってもらいたいと思う。選手たちが、日本バスケットボール界を盛り上げるためにという思いも胸に挑んだワールドカップで、素晴らしい結果を残し注目を集めた。この次は、Bリーグや各クラブがこのバトンを受け継ぎ、パリ五輪とその先へ繋げていきたい。

 今回参加した選手たちや八村に加え、惜しくも最終メンバーに残れなかった選手や、新たな選手は、また新たにパリ五輪出場を目指し、既に次なる挑戦の日々が始まっている。10月5日のBリーグ2023-24シーズンの開幕へ向け、今週末もプレシーズンゲームが行われる。これまで以上に盛り上がるであろうBリーグの開幕が今から待ち切れない。

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文:木村英里
写真:FIBA、濱田茉里

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