[FOCUS 長崎ヴェルカ]ジェフ・ギブスって誰?
長崎ヴェルカのホーム開幕戦が10月9日10日に長崎県立総合体育館で開催され、横浜エクセレンスと対戦した。ついに長崎のファンの前で行われた記念すべき試合を現地で見て感じたことをリポートする。
本当にB3リーグの試合なのだろうか
GAME1、会場に詰めかけたファンは1888人に及んだ。翌GAME2も1317人と期待値の高さを感じさせる入場者数。以前から開幕戦を楽しみにしていた方もいれば、中にはたまたま近所を通りかかり「バスケットボールの試合をやるらしい。当日券もあるそうだから観てみよう」と足を踏み入れた方もいた。
オープニングの演出にはプロジェクションマッピングも登場。B1チームの中でもこのような演出をしているチームは数えるほどだろう。
7〜9日は長崎市にある諏訪神社の祭礼である長崎くんちの期間中だったこともあり、試合前には龍踊り(じゃおどり)が披露された。アウェーチーム横浜EXのファンにとってみれば、貴重な長崎文化を見て知ることができる機会となっただろう。
そしてコートに登場した選手たち。今シーズン新規参入したチームとは思えないオーラと風格があった。メンバーの中には、昨シーズンB1決勝の舞台にいたジェフ・ギブスなど日々見てきた選手がいるのだから当然かもしれない。演出や選手の姿を見ていると、ふと忘れてしまうのだ。そう、これから始まるのはB3リーグの試合なのだ。
ジェフ・ギブスって誰?
「ジェフ・ギブスって誰?すごい選手なの?体すごいね!」
試合中、記者席の近くからこんな声が聞こえてきた。驚いたものの考えてみたら至極当然なことだった。Bリーグファンなら誰もが知る名前。しかしBリーグを初めて見る方々にとっては皆同じ初めましての選手たち。もちろん、彼らがすごい選手たちであることは試合を観るうちにすぐ知ることになるだろう。だからこそ、ギブスのダンクの迫力やゴールが軋む音がすれば大人たちもが、最高のリアクションを見せていた。
連日100点越えのゲームで勝利した長崎が目指すよく走りテンポを上げる展開の速いバスケットボールスタイルは、すでに長崎のファンを虜にしつつあるようだった。
一つ一つの得点に沸き、興奮度も増していく。連日、会場には初めてプロバスケットボールの試合を見る方々が詰めかけていた。
GAME2では1クォーターから連続3ポイントシュートを決め会場を沸かせた#22近藤崚太は試合後に「3、4本目くらいから『また入るのか !』という驚きにも似た反応を感じた」といい「掴みはオッケーかな」と笑っていた。
GAME2の試合前、来場していた長崎市の田上富久市長は「プロバスケットボールを観るのは初めて。ワクワクしている」と興奮気味に挨拶をされていた。会場にいた皆さんの声を代弁していたと思う。
ダンクシュートが決まった際には子供達が飛び上がって喜び興奮していた。どのBリーグ会場も興奮して盛り上がるファンの姿ばかりだ。ただ、ここには「初めて」のバスケとの出逢いがある。スピーディーな展開は初観戦するファンを飽きさせない。スリーポイントシュートやダンクシュートが決まればバスケットボール特有の美しさや迫力を感じることができる。2日間、ファンの方々がどれほど興奮し熱くなってくれたのかは、コロナ禍で声を出すこともできず皆マスク姿であっても、その眼差しや仕草を見ていれば理解できた。
選手たちと同様観客を楽しませたヴェルチア
NFLのニューヨーク・ジェッツや、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズをはじめ本場アメリカでチアリーダーやダンサーとして活躍したNAMI氏がディレクターを務めるということもあり、チアの注目度や期待値も高かった。個人的にはバスケットボールにはかっこ良いチアが似合うと感じている。NBAの番組に出演していた頃に、そのかっこ良さと迫力や美しさに魅せられたからかもしれない。今回、彼女たちのパフォーマンスを見ていると、NAMI氏が目指すと語っていた「エンターテインメントの要素を含んだメッセージ性のあるチア」その意味が理解できる気がした。
最初に披露されたのは、長崎くんちをイメージした衣装に身を包みヴェルチアなりの解釈とアレンジを加えたパフォーマンスだった。その街の文化を理解し発信、繋いでいく。長崎の街を盛り上げる、地域創生というクラブの理念。チアもその一翼を担っている。
その後も、パンツスタイルに着替え、観客を圧倒する激しいダンスパフォーマンス。思わず、私もこんな風に踊れたら…と憧れてしまった。そして、クールなダンスを披露したかと思えば、会場のファンも一緒に踊れるダンスも。その度に衣装も変わり、ここまで気合が入っているのかと驚かされた。パフォーマンスを見ていると、その期待に応えようとチアのメンバーが努力してきたであろうことも伝わってくる。
「まだまだこれから」と言っていたが、挨拶をした際のNAMI氏やマネージャーのSAKURA氏の笑顔から充実ぶりが伝わってきた。でもポテンシャルはまだまだ、今後も注目したい。そして、何よりも会場にいた子供たちがチアのダンスを真似して体を動かしている姿がとても微笑ましかった。バスケットボールだけではなく、チアという文化も長崎に生まれる予感がした。
走り出した長崎ヴェルカ
長崎ヴェルカの挑戦はまだ始まったばかり。伊藤拓摩ゼネラルマネージャー兼ヘッドコーチもキャプテンを務める#4狩俣昌也も「プロである以上勝つことは大事だが、バスケットボールならではの迫力や魅力を見せることが大切。プロは楽しませることも必要」と口を揃える。
まずはバスケットボール、長崎ヴェルカのファンになってもらうこと。クラブをこの土地に根付かせることが重要なミッションだ。
狩俣は容易にレイアップを決められるシーンで、あえてゴールボードにボールを跳ね返らせ、後ろを走ってきたマット・ボンズの豪快なダンクシュートを演出した。このシーンも純粋にバスケットボールを楽しんで欲しいという気持ちの表れだろう。目的意識はスタッフも選手も全員がしっかりと共有できていた。
ファンの方々がユニフォームやチームウェア姿で会場へ足を運んでいたこと、そして試合後に街を歩けばユニフォームやチームウェア姿の方々とすれ違うことに驚いた。さらに、街中を散策していると至る所で目にした長崎ヴェルカのポスター。クラブとしては良いスタートを切れたのではないか。もちろん、J2リーグの舞台で戦っているプロサッカーチームV・ファーレン長崎の存在や影響も大きいだろう。今後、長崎ヴェルカは県内各地で試合を開催する予定だ。長崎県内全域に認知度を広げファンを増やしていく。
岩下英樹社長は「感極まって挨拶できないかと思っていたが、泣いている暇もなかった。バタバタで…」と振り返る。GAME1終了後、試合中の印象的なシーンをプリントしたTシャツを製作して販売するはずが上手くいかず。幻の一枚だと岩下社長自ら着用しGAME2の試合前、ファンに向けて挨拶をしていた。最初から全てが上手くいくことなどない。たしかに演出時の機械トラブルや、場内アナウンスの訂正の多さなどまだまだこれからの課題も多かった。いきなりの本番だったがクラブ関係者が全力で臨み、ファンの方々を笑顔で出迎えていた姿は目に焼き付いている。もちろん選手たちもクラブスタッフへの感謝を忘れていない。長崎は練習場と同じ場所に運営や営業などに携わるクラブスタッフがいるのだという。自分たちのために日々奮闘している仲間の姿やプライドを見ていればプレーで恩返しをするしかないという気持ちになるはずだ。
改めて、長崎に新たなバスケットボール、長崎ヴェルカという文化が誕生すると思うとワクワクした。長崎のファンが会場で熱狂し声援を送る姿を想像する。ヴェルカーズが日本全土に応援へ駆け付ける日もそう遠くないだろう。
今年4月、初めて長崎ヴェルカを取材した時点で契約していた選手は4名だけだった。それが半年経ち、こうして素晴らしいスタッフ、選手を加えてファンを楽しませている。とても感慨深かった。動き出した長崎ヴェルカの今後をとても楽しみにしたい。