川崎ブレイブサンダース ニック・ファジーカスが引退 時代の終焉から変革、再建へ
「時代の終焉」
川崎ブレイブサンダース、篠山竜青はそう表現した。
#22ニック・ファジーカスの引退。
レギュラーシーズン最終節となった神奈川ダービー。対横浜ビー・コルセアーズは1勝1敗、ファジーカスのラストゲームを勝利で飾ることはできなかった。
ただ試合後には引退セレモニーが行われ、横浜BCの河村勇輝から花束が贈られた。ファジーカスは両チームの選手たちと記念撮影をし3度宙を舞った。
最後は観客の声援に手を振りながら応え、笑顔でコートを後にした。
アウェーの地でのセレモニー。それは、改めてクラブの垣根を越えて日本のバスケットボールファンから愛され、リスペクトされ続けた選手だったのだと感じさせるものだった。
「感情的になる試合でした。始まる前から感傷的になると思っていました。(セレモニーを終えて)みんなが帰らずに僕の名前をコールしてくれて、見ていてくれました。愛情を感じる部分が大きかったです。その中でも、最後に横浜BCの選手と一緒に写真撮影をしたり胴上げに参加してくれたり、それだけ相手からのリスペクトも感じました。僕自身がこのリーグに与えた影響があったのだと思います。感謝しかありません」
そう語るファジーカスの表情は疲労と寂しさを感じさせつつもどこか穏やかだった。
「NICK THE LAST」と掲げた特別なシーズンだった。それでもチャンピオンシップ出場は叶わなかった。33勝27敗、中地区4位で今シーズンの戦いを終えた。
試合の最後、コートに立っていたのは、藤井祐眞、篠山竜青、長谷川技、ジョーダン・ヒース、そしてニック・ファジーカスだった。
長い時間、共に戦ってきた仲間。佐藤賢次ヘッドコーチは、「試合が始まる前に、頭の片隅で最終戦ではコートに全員を出させたい、そしてあの5人で最後を戦いたいという思いがありました。もちろん勝負事なのでその通りにはいかないだろうとも思っていましたが、トーマス・ウィンブッシュのターンオーバーが続いてしまったところで、藤井祐眞を送り出す時に最後はこの5人で行こうと決めました。
今シーズン戦ってきた中であの5人が出ている時は、糸で繋がっているようなパス交換やディフェンスの連携が見えていました。最後はそこに賭けました。残念ながら追いつかなかったけれど悔いはないです」、そう振り返った。
今シーズンは、苦しいシーズンだった。
篠山は、「12月にヒースが離脱してしまったあたりから、ディフェンスがなかなかうまくいかなくなった感覚はありましたし、加えて年明けにはニックも怪我で離脱してしまって、本当に苦しい苦しい時期に入りました。(その他の選手たちと)一つのチームとしてしっかりもがいて全員が貢献してと、形を掴みかけていたとは思います。チームとしての成長を感じるような時期ではあったと思いますが、結果としてそこでなかなか連敗を止めることができませんでした。ディフェンスやオフェンスではどこでどうやって攻めるのか、チームとして何が強みでどう打開したいのか突き詰められなかったということがこの結果に繋がったと思います。この1年を無駄にしてはいけないと思いますし、キャプテンとしてチームをいい方向に導ききれなかったというところはすごく責任を感じています」と振り返った。
これまでにも苦しいシーズンはあった。しかし、今シーズンは取材を通して篠山の苦しそうな表情や言葉に触れる時間が特に多かったように思う。
「今年もしっかり苦しんだなという感覚はあります。でも苦しいながらも今シーズン加入してくれた野﨑零也、飯田遼、益子拓己も含め、本当に支えてもらったと思います。リーダーシップを持っている選手たちが入ってきてくれて、共感してくれたりサポートしてくれたりすごくありがたかったです。もちろん苦しかったですが、いい面も少なからずあった1年でした」
入団時期や年齢に関わらず、チームを鼓舞したり喝を入れたりする頼もしいチームメイトの存在は、篠山にとって想像以上に大きかったのだろう。と同時に、篠山は久しぶりに就任したキャプテンという立場の難しさにも改めて直面していた。
「自分の弱さとか、客観的に自分がどういう人間なのかを思い知らされました。感情を爆発させるのは苦手なんだなと改めて感じました。自分の意に反する事があったり言われたりした時に、怒りの感情が爆発するより先にその人の立場になって、なぜこの人はこういうことを言うんだろうとか、この人の立場で考えてみたらこうやって言うのもしょうがないのかなとか共感や疑問が浮かび、言わなくてはいけないことが言えなかったり遅くなってしまったり。自分の中で、すごく難しいと感じました」
35歳、過去に何度もキャプテンという職を担ってきた。時には日本代表のキャプテンとしても牽引してきた。そんな篠山でもここまで悩んでいたのだ。だからこそ、前述の通り、新加入の選手たちの存在をより頼もしく感じていたのだろう。
GAME2終了後、ファジーカスと抱き合っていた篠山。前節、とどろきアリーナでの引退セレモニーでは感情を押し殺していた。「ありがとう」と「お疲れ」を伝え労った。「全部終わったので、やっと言えたかな」と少しだけ微笑んだ。
そんな篠山は、既に来シーズンへの覚悟、想いも口にしていた。
「時代というものは移り行くもの。歴史は変わっていくものです。CSに出続けることも素晴らしいですがそれがすべてではないと思います。川崎は優勝できていないので、優勝できなければ同じです。クラブとしてこの結果をしっかり受け止めて、変革、再建のために迷うことなく舵を切らなければいけないと思います。改めて、ニックが引退した後、川崎ブレイブサンダースがBリーグの中でどういう存在であり、どう歴史を築くのかが問われると思います。もちろんCSに出てまだまだニックと戦いたかったという思いもありますが、取りこぼしの多いシーズンで勝ちきれない弱さ、もろさ、自分たちで招いた結果だと思っています。長年共にしてきたから選手、コーチ、フロント、変えられなかった部分がいろいろあります。しっかりと受け止め、次に繋がるシーズンにしなければいけないですし、大事なのはCSを逃したその後だと思います」と、クラブとしての課題を静かに語る篠山からは覚悟が感じられた。
時代の終焉を迎えたのならば、新たな歴史を築いていく時期がくる。「クラブの歴史として失敗だとは思っていません」と言い切る篠山の姿が印象的だった。
キングの引退による寂しさ、結果を出せなかった悔しさとともに、選手たちは次のシーズン、ステージへと歩みを進める。この先、川崎がどのようなクラブ、チームへと変化、進化を遂げていくのか、じっくりと見守りたい。
Dear ニック・ファジーカス
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【インタビュー出演者】
篠山竜青 選手(川崎ブレイブサンダース)
栗原貴宏 HC(福島ファイヤーボンズ)
青木保憲 選手(仙台89ERS)
林翔太郎 選手(福島ファイヤーボンズ)
小澤智将 選手(横浜エクセレンス)
熊谷尚也 選手(アルティーリ千葉)
大塚裕土 選手(アルティーリ千葉)
岩部大輝 AC(アルバルク東京)
伊敷仁美 さん (元川崎ブレイブサンダース スタッフ)
山下泰弘 選手(佐賀バルーナーズ)
永吉佑也 選手(サンロッカーズ渋谷)
野本建吾 選手(群馬クレインサンダーズ)
辻直人 選手(群馬クレインサンダーズ)
高木英夫 さん(元川崎ブレイブサンダース運営部長)
竹内譲次 選手(大阪エヴェッサ)
綱井勇介 選手(神戸ストークス)
菊地祥平 選手(越谷アルファーズ)
谷口光貴 選手(ライジングゼファー福岡)
張本天傑 選手(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)
川原侑大 AC兼VA(名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)
太田敦也 選手(三遠ネオフェニックス)
比江島慎 選手(宇都宮ブレックス)
竹内公輔 選手(宇都宮ブレックス)
馬場雄大 選手(長崎ヴェルカ)
ジュフ磨々道 さん(元東芝、元川崎ブレイブサンダース選手)
吉田直樹 さん(元東芝、元川崎ブレイブサンダース スタッフ)
東野智弥 さん(日本バスケットボール協会 技術委員会委員長)
勝又穣次 さん(元東芝選手、元川崎ブレイブサンダースAC)
加々美裕也 さん(元東芝選手)
高森てつ さん(川崎ブレイブサンダース アリーナMC)
金丸晃輔 選手(三遠ネオフェニックス)
小野龍猛 選手(富山グラウジーズ)
平尾充庸 選手(茨城ロボッツ)
晴山ケビン 選手(島根スサノオマジック)
安藤誓哉 選手(島根スサノオマジック)
松井啓十郎 選手(香川ファイブアローズ)
水野幹太 選手(京都ハンナリーズ)
前田悟 選手(京都ハンナリーズ)
前田顕蔵 HC(秋田ノーザンハピネッツ)
伊藤拓摩 代表取締役社長兼GM(長崎ヴェルカ)
藤田弘輝 HC(仙台89ERS)
佐々宜央 HC(宇都宮ブレックス)
安齋竜三 HC(越谷アルファーズ)
ベンドラメ礼生 選手(サンロッカーズ渋谷)
田中大貴 選手(サンロッカーズ渋谷)
安藤周人 選手(アルバルク東京)
伊藤大司 GM(アルバルク東京)
パブロ・アギラール 選手(ライジングゼファー福岡)
荒木雅己 さん(TBLSサービス株式会社元川崎ブレイブサンダース運営会社)元代表取締役社長)
大島頼昌 通訳(佐賀バルーナーズ)
富樫勇樹 選手(千葉ジェッツ)