7月6日、武田薬品工業株式会社 グローバル本社内でIBDreamめし～アスリート編～トークイベント＆試食会が開催され、琉球ゴールデンキングスの岸本隆一（きしもと りゅういち）選手が元ラグビー選手の加藤広人（かとう ひろと）氏、総合格闘家の征矢貴（そや たかき）選手ととも登壇。北里大学病院栄養部管理栄養士の太田裕子氏やおうちの診療所中野 院長/株式会社omniheal代表/日本うんこ学会会長の石井洋介先生らと、炎症性腸疾患と戦うアスリートが“食べたい”を叶える夢のレシピなどについてトークを繰り広げた。
「IBD」とは炎症性腸疾患＝Inflammatory Bowel Diseaseの略である。腸を中心とする消化管粘膜に炎症が生じる疾患。推定患者数はおよそ29万人とされていて、指定難病の中では患者数が最も多いと言われている。岸本選手や加藤氏が向き合う潰瘍性大腸炎と征矢選手が向き合うクローン病は、寛解と再燃を繰り返すことが説明された。
炎症性腸疾患と戦いながら競技に挑むアスリートは多い。体調管理やパフォーマンス力の発揮、向上のために特に食という分野は重要である。炎症性腸疾患と戦うがゆえに脂質や食べられるものなど限定されることもあるという。
2022-23シーズン、琉球を悲願の優勝に導いた岸本選手は2020年の春に潰瘍性大腸炎と診断された。イベント冒頭、2022-23シーズンのBリーグ頂点に輝いたことに触れ「チームとしてはいい時期も悪い時期もあり、病気と同じだなと感じた。自分とチーム状況を照らし合わせていた。疾患を抱えていたとしても、競技を続けることだけでなく上を目指していいんだと優勝することで示せたのではないか」と語った。
発症当時、「下痢から始まり、調子が上がらないと思っていたら血便が始まった。様子がおかしいなと感じながらも、規則正しく過ごし消化にいいものを口にしていた。1ヶ月経ち、貧血や頭痛と戦っていた。コロナ禍でリーグが中断していたので、総合病院へ行き内視鏡検査を行い入院した。診断された時は、医療的な知識もなく2~3日で回復するだろうと思った。調べてみると想像を越えたもので、バスケットボールや家族のことが気になり絶望感があった」と、岸本選手は明かした。入院時期も、絶食や退院時期も見えない中で不安と戦っていた。
何気なく食べていた食事や家族との時間など、当たり前のことができる日常に感謝するようになり、「病気になったことがきっかけでポジティブになれる要素を探すマインドになれた。今はそう言えるまでになった」と語った。
昨シーズン中、同じく潰瘍性大腸炎と戦う原修太選手が所属する千葉ジェッツと対戦した際にはチャリティコラボTシャツを販売、売上の一部を潰瘍性大腸炎の関連団体へ寄付をした。ホームコートだった千葉での試合でTシャツは両日完売。「寄付だけでなく認知も深まり、いい企画になったと思う」と岸本選手は振り返っていた。現在では、「会う度に、まずはお腹をさすり合う間柄になった」というエピソードも明かしていた。
加藤氏は、「トイレに行く回数が増え、体重コントロールができなくなった。入院までに20キロ以上減り、多いときはトイレに1日30回以上行ったことも。重度の潰瘍性大腸炎と診断され即入院だった」という。「自分にコントロールできないことでイライラが増した。家族やチームメイトの支えがあり、引退はしたが今頑張れている」と明かした。
また征矢選手は、2017年にクローン病と診断され「復帰まで2年近くかかった。一般的に使用される薬を試したが一時的にしか効果がなく、違う薬を探している間はゴールが見えず不安があった。体調が多少悪くても練習したが、今までできていた動きができなかったり後輩に負けたりしてしまった」と振り返った。現在も、「自分1人では復帰することが難しい。家族が一番サポートしてくれた。期待に応えたいという思いがモチベーションになった。また、格闘技で成し遂げていないことが多々あり、もう少しやってみよう」という気持ちで再び挑戦をしている。
公表した際を振り返り、「病気を隠すプライドは捨てて公表した方が、ファンや同じ病気と戦う人にプラスだ。自分が閉ざしていては必要な情報も入ってこないし、公表することで翌日から心と体が軽くなった」と話した。
食事面では、それぞれが脂っぽいものや、スイーツ、刺激の強いものなどを控えるようにしているという。今回、IBDと戦うアスリートから食べたいものをヒアリングし、IBDreamめし～アスリート編～が開発された。披露されたのは、5つのメニュー。
皆で楽しめる！！夢もあふれるピニャータケーキ
絶対まけない！！〜お肉いっぱい多幸ライス～
祝！肉だくさんでボリュームたっぷり
華やかごはんケーキ！
白身カツもルーローハンも！
どっちもよくばり丼
会話も弾む♪色でもまんぞくサバトマトソース
見た目にも華やかで様々なジャンルのメニューが並んだ。試食した岸本選手は、「気を遣う食事は味が薄かったが、どれもしっかりした味。クリーミーなデザートを食べるのが久し振りで幸せを感じている」とコメント、安心しながらおいしく食べられるメニューに笑顔を見せた。疾患に関わらず、誰とでも一緒にいただくことができ、おいしく満足感のある味付けであることが魅力的だった。
イベントを振り返り、岸本選手は「（加藤氏、征矢選手に）控え室でも競技中について質問をした。当事者同士共感することがあり、自分は1人じゃないと感じた。バスケットボールをプレーを続けながら、孤独感を解消する手助けができたら」と今後に向けた想いを語った。
加藤氏も「他の競技の方と共感したり、全く違う考えを聞いたり刺激になった。SNSを通して、より発信していきたい」と周知を続けていく。
征矢選手は、「この先、みなさんの活躍を見てまた刺激になると思う。格闘技は個人競技、病気も孤独な戦い。素晴らしいアスリートと交流できて励みになった」と感想を語った。他スポーツのアスリート同士がIBDについて語る場は珍しく、貴重な時間となった。
「倦怠感や下痢は誰にでも起こる。発熱や血便、トイレへ行く頻度が増えるなど変化が続いたら早めに病院へ来てほしい」と石井先生は語った。今回の登壇者は公表後、周囲から「トイレ大丈夫？」「このお店の食事はどう？」とさり気なく聞いてくれることが嬉しかったとそれぞれが語っていて印象的だった。外から見てわかる病気ではない。正しく周知し、ますます多くの方に認知してもらうことの必要性を感じた。
■炎症性腸疾患（IBD）のことを知りたい方はこちらのサイトをご覧ください。
IBDステーション https://www.ibdstation.jp/
